THE BASIC

井上企画・幡の仕事
 

私たちの商品は色も形も豊富であり、お客様も多岐に渡ります。それは良いところでもあり、品番が増える悩みもありました。

日野さんとの出会いは2023年2月。

日野さんの扱われている商品は台所用品という多くのカテゴリーにも関わらず、並んだ商品は形や用途が違えども同じ空気を醸し出し、空間の中で整理整頓された世界を作られていました。

取り扱われるものは現地に出向いて、仕事の工程や歴史、作家さんや企業の苦労を学び、作り手の方の人柄も含めて大切に販売されています。

「長く愛せる商品」

そんな日野さんのお仕事を拝見して、沢山ある幡の商品から定番と言える商品を客観的に捉え、着心地や使い勝手を納得した上、長く使ってもらえるものを一緒に考えてほしいと相談しました。

そして一年半が過ぎ、幡の定番品「THE BASIC」を完成させることができました。
キーワードは、スタンダード、ロングライフ、持続可能、ユニセックス、原点回帰、理由あるものづくり。

                
林田 千華


 井上企画・幡さんとの出会いは、「井上博道」でした。「美の脇役」という1961年発行の美しいモノクロ写真の本を古書で手に入れて以来、時々ページをめくっていました。2023年の春。ある見本市で色鮮やかな幡さんのブースに引き寄せられるように入り、説明を受け、手渡された会社概要を帰路でめくってみたところ、「創業者・井上博道」の名を発見しました。驚いて翌日、改めて挨拶にいったのはいうまでもありません。そんなご縁から、奈良にお誘いいただきました。地場のものづくりに興味を持っていましたが、奈良の蚊帳や麻のことは全く知らない中、「知らない方が客観的な感想を伝えてもらえるから良い」と言って受け入れて下さいました。

 洋服の業界は流行り廃り、そして廃棄が問題になりますが、井上企画・幡は極力それを避ける方向で動いていました。ものづくりも働き方も、捨てずに生かす。が常にベースにある、と感じました。大学時代は「消費者をやめて愛用者になろう」と提唱されていた工業デザイナーの秋岡芳夫さんの講義を受けました。大学卒業後、会社員の時に営業として扱ったものは、1930年代や50年代にデザインされたフィンランドのグラスでした。50年も愛され続け、作り続けられているものを扱うことが営業の基本として生きてきた人間としては「THE BASIC」の考えは、ごくごく自然なものと感じます。

  “かや”といえば、部屋に吊るす蚊除けの麻の蚊帳しか思い浮かばなかったのですが、井上企画・幡に通うことで「蚊帳織り」という織り方があり、この蚊帳織りの綿生地から、これだけさまざまなものが生まれるということを知りました。

 まさかあんなにゴワゴワなものが綿だなんて。そもそも、いちいち、織った後で糊をつけているなんて。作り手たちは、不思議でもなんでもないようですが、こんな手間がかかることを「当然」と思って作業していることに脱帽してしまいます。
 さらに、あのゴワゴワがこんなにふっくらするなんて。

「使い込むこと」が大好きな人間にとって、こんな変化は楽しくてたまりません。

 さて、「風を通しても、蚊は通さない」蚊帳生地は夏限定か?と思ったら、凹凸のある糸を使って織った“スラブ”は、かやの織り方なのになんと暖かい。綿は涼しいと思っていたら、綿繊維の構造は空洞で空気を含むから、糸次第で保温によった生地にもなるのでした。
さらに、蚊帳生地をアップサイクルさせた “marrow(メロウ)”でかやの古着や残布を糸にして、二重織にすることで、予想以上のあたたかさを体現させたのはお見事。これで一年のほとんどの期間を綿と過ごせます。

 “蚊帳生地”から始まる七変化は、「日常」と「気軽に」を生み出しています。色々な衣類の中から、「結局はこれを手に取ってしまう」。そのようなものが、この“THE BASIC”です。

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