井上企画・幡は、カメラマンの井上博道と奈良の麻問屋に生まれた千鶴夫妻が創業した会社です。
博道は、2012年撮影中に倒れ 81歳で他界するまでカメラと共に生き、沢山の作品を残しました。一方、千鶴は麻の風合いを活かしたバッグや生活雑貨を開発し、卸販売や直営店舗を展開。創業から35年、「幡」の名のもとそれぞれのフィールドで、オリジナリティを追求した世界をつくってきました。
井上博道記念館 開館から一年を迎えたこの機会に、井上博道の魅力に改めて迫るべく、広報担当が井上千鶴にインタビューを行いました。
その様子を3回に渡ってお届けします。
前回のインタビューは、こちらをご覧ください
▶ #1 井上博道の軌跡をたどって
#2 井上博道記念館のはじまり
――井上博道記念館を作ろうと思ったきっかけは?
井上千鶴(以下、井上) まずは、亡くなって2年ぐらいが経った頃から、博道がのこした膨大な量のフィルムをどうしていこうかという壁にぶつかりました。そこから一年間かけて、いろんな方に教えてもらったり調べたりして。やり方を決めて、整理整頓して保存することにしました。これまで7年半かけ、セレクトした5万点のフィルムを整理する中で、色々な気づきがあって。ただ単に置いておくだけでは 世の中から忘れ去られてしまう。井上博道というカメラマンはどんな人だったのか。どんな仕事をしていたのか、ということすら消えて行ってしまう。私自身 博道の作品の良さを信じているので、彼の仕事をわかってもらいたい。という気持ちで、記念館を建てることにしました。
そこで作品をご覧いただいて、皆さまの心に何かを感じてもらいたい。ひいては、日本の伝統文化の素晴らしさを伝えていきたい。私自身が活動して繋げていかなければ、という使命感もあります。
――記念館のコンセプトは?
井上 人間が本来持つ「五感が満たされる場所」です。要素として、まずは 博道が遺した美しい作品を見てもらうこと。イベントやセミナーで知見を深めること。身体にやさしいこだわりの手料理を味わっていただくことです。
ダイニングでは、季節の八寸膳(¥3,000 予約制)をご用意しています。青葉の揺れるお庭を眺めながら、旬の食材で季節の移ろいを感じていただけます。
訪れた方々には、日常を忘れてアートを楽しんでいただく為、建築やしつらえなど、空間デザインにもこだわっています。スサの入った土壁、漆塗りの扉、奈良の吉野で作られた家具・・・日本の伝統技術が豊かな緑と調和し、皆さまをお迎えします。
――開館して一年がたち、思うことは。
井上 開館して一番良かったと思うことは、人との触れ合いや繋がりができたこと。ここを開けていなかったら、この方とは出会えなかっただろうな。と思うことが多くて。開館当時の小さな新聞記事の切り抜きを持って、東北地方から当館の為だけに奈良へ来てくださった方も居ました。
また、私なんかよりも先輩の方々も元気に来館されて楽しんでいる。私が幡の会社にいるときは、周りは若いスタッフばかりで、若い人たちの刺激をもらって有難かったです。でもここでは、同世代やそれ以上の方との付き合いが逆に新鮮で。今までそういうお付き合いって意外と無かったので、同世代の方々の想いがわかって再発見というか。「自分の至らなさ」って、この年になるとわかってくるものなんですね。色々なことを考えながら、影響されながら。ここを開けることで様々な人と交わって、勉強させてもらいたいなと思っています。
――今後の目標は。
井上 実は、開館して最初のうちは、そんなことも考えられないぐらいに毎日バタバタしていて。目標を考える余裕がでてきたのは最近のことです。一年を振り返った時に、やはりお客様との出会いが一番の収穫だったな、と。今後もそれを追求するべく、様々なイベントやコンサートを開催したり、お茶室でほっとリラックスしていただける空間を作ったり。
井上博道記念館は、単に「博道の写真を展示する場所」以上に、様々な年代の方が集い、一期一会の出会いを大事にできる「小さな文化の発信地」として永く愛される存在を目指していきます。
皆さまのご来館、お待ちしています。
井上博道記念館
住所 〒631-0003 奈良市中登美ヶ丘2-1984-31
電話番号 0742-43-9111
開館日 木・金・土曜日
営業時間 11:00~17:00 入館無料
アクセス
車/構内に5台、近隣の契約駐車場に4台駐車できます。
タクシー/近鉄「学園前」駅下車。北改札口からタクシー乗車、約10分。
公共交通機関/近鉄「学園前」駅下車 北改札口
奈良交通バス1番乗り場より乗車「登美ヶ丘五丁目」下車徒歩約2分
奈良交通バス2番・3番乗り場より乗車「登美ヶ丘三丁目」下車徒歩約5分。
次回、#3 幡のこれから につづく